オリンパスはなぜ財テクの損失を隠し、買収資金で穴埋めするという違法行為に手を染めたのか。菊川剛前会長兼社長ら財務や総務部門が経営の実権を握り、保身のため、問題を先送りしてきたという構図が浮かび上がる。外部を含む取締役会や監査役によるチェック機能も働かなかった。オリンパスは上場廃止の可能性もある会社存続の危機にひんし、世界から日本企業全体のガバナンス(企業統治)が疑問視される事態も招いた。
「今まで黙っていて、大変申し訳なかった」。7日夕、高山修一社長から問いただされた菊川氏は、わびながら損失隠しを認めたという。直前に、解任された森久志副社長が損失隠しを“自白”しており、言い逃れはできなかった。2人とも違法性を認識していた。
高山社長は「(菊川氏らはそれ以前の経営陣から損失隠しを)引き継いだようだ」としており、申し送りによる組織的な不正行為だったことがうかがえる。
損失隠しに携わった菊川氏、森氏、山田秀雄常勤監査役の3人は、いずれも財務部門や総務部門といった中枢部門での社歴が長い。
とりわけ一連の買収を主導したとされる菊川氏は平成11年に財務担当役員に就き、その前後から同社のM&A(企業の合併・買収)が活発化した。
菊川氏は13年の社長就任後もM&Aへの傾斜を強め、参謀役として森、山田両氏がこれを支えた。財務・総務部門が経営を支配し、ノーチェックで暴走した構図が浮かぶ。
「証券会社やM&A仲介会社に勧められると、何にでも乗ってくる。ギャンブル好きは有名で、ヤマっ気が強すぎる」
菊川氏を知る大手企業首脳は、こう明かす。
三者委の調査や関係者の話などによると、同社は昭和60年以降、財テクに奔走。経理部に在籍していた山田秀雄前監査役(66)と森久志前副社長(54)が主に金融資産の運用に携わったが、バブル崩壊で含み損が膨らんだ。
平成12年4月の時価会計導入を控えた10年、2人は含み損を抱えた金融資産を簿外に移す必要があると判断。大手証券OBらの協力を得て海外のファンドに飛ばし、菊川前会長ら歴代3社長に定期報告した。
山田氏、森氏はその後、国内外4社の買収を利用した損失穴埋めでも中心的な役割を果たしていたとされる。“汚れ仕事”を一手に引き受け、出世の階段を駆け上がった2人だが、三者委の調査に「苦しかった」と心情を吐露したという。
過去の“恥部”をひた隠し続けた旧経営陣。今月6日に公表された三者委の報告書には、厳しい表現が刻まれた。「経営の中心部分が腐っており、その周辺部分も汚染されていた」「悪い意味でのサラリーマン根性の集大成」…。
作家で経済ジャーナリストの相場英雄さんは「オリンパスの不正経理は、日本企業が受けたバブル期の傷がいまだ癒えていないことを示している」とした上で、「こうした負の遺産を抱えた企業はオリンパス1社とはかぎらない。投資の世界では早くも、同様の怪しげな買収をしている企業がないかどうかを探す動きが出ている」と指摘している。
突然の「外国人社長解任」騒動から2カ月余り。オリンパスの損失隠し疑惑に21日、本格捜査のメスが入った。東京地検特捜部などが金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で、関係先の家宅捜索に着手した。損失を簿外に移す「飛ばし」に手を染め、隠蔽し続けた世界的光学機器メーカーの旧経営陣。そうした体質は、同社の第三者委員会に「サラリーマン根性の集大成」などと指弾された。バブル経済の負の遺産を先送りにしたツケは、刑事事件化という形ではね返った。
10月14日に開かれたオリンパスの臨時取締役会。かねてから不透明なカネの流れについて問いただしていた社長のマイケル・ウッドフォード氏(51)の解職動議が、突然諮られた。ウッドフォード氏を除く全員が手を挙げ、解職はあっさりと決まった。
「独断専行で組織の意思決定を進めた。文化の壁を越えられなかった」
当時の菊川剛会長(70)は同日の記者会見で、解任の理由についてそう語った。だが、ウッドフォード氏がメディアや国内外の捜査機関に疑惑を告発することで、国際社会の疑念は膨らんだ。結果的に同社は三者委への調査委嘱を余儀なくされ、損失隠しなどの一連の不正が明るみに出た。
巨額の損失隠しに伴う決算訂正により財務内容が大幅悪化したオリンパスが、1000億円規模の増資に向け検討していることが20日、分かった。すでに複数の証券会社に資金調達の仲介を依頼し資本増強の準備に着手。来年1月をめどに具体策を取りまとめる考え。海外の投資会社などの大株主は「既存株主の議決権が希薄化する」として増資に反対しているが、銀行団は資本増強策を支持する見通しで、実現には曲折も予想される。
オリンパスは、損失隠しなどで経営の健全性を示す自己資本比率が9月末時点で4.5%まで低下。健全な事業会社の目安である30%を大きく下回っている。このため、高山修一社長ら現経営陣は、他社との資本提携を含めた資本増強策の検討に入っていた。増資の引受先としては、製造業や金融機関などを想定しており、医療機器事業の強化を急いでいる富士フイルムホールディングスやソニー、パナソニック、独シーメンスなどが浮上。事業面での提携効果を基準に検討するとみられる。
また、既存株主に配慮して、現時点では議決権がない代わりに優先的に配当を受けられる「優先株」の発行を検討しているもよう。ただ、大株主である米投資会社のサウスイースタン・アセット・マネジメントは19日、増資に反対する声明を出しており、「現経営陣が(株主に)高圧的な対決姿勢を崩さなければ、株主訴訟の可能性が増す」とも警告している。
一方、ブルームバーグによると、三井住友銀行などの銀行団は現経営陣が計画している資本増強について、関係者2人が支持することを明らかにしたとしている。
オリンパスが損失隠しを認め、株価がストップ安の734円まで下落した11月8日の時点で、ゴールドマンによるオリンパス株の空売り残高は194万株とピークに達した。ところが株価が584円まで下落した翌9日の時点で残高は4万株強にまで一気に激減する。この時点で大量に買い戻したということになる。
同社の株価は11日に460円まで下げたが、週明け14日には上場維持観測が広がったことからストップ高の540円まで反転した。ゴールドマンは暴落前に空売りを入れて、底打ち直前に買い戻している。
この間の収支を終値ベースで計算すると、オリンパス株を空売りした額は約40億円、一方で買い戻した額は約18億円。実際には、現物株の買いなどを組み合わせている可能性もあり単純ではないが、空売りと買い戻しに限れば、差し引き約22億円の利益と計算できる。
前出の証券マンは、「株価の下値メドはまず半値、次は八掛け、そして2割引とされる。上値を2000円とすると下値は640円。投資の基本に忠実に買い戻したとも考えられる」という。