突然の「外国人社長解任」騒動から2カ月余り。オリンパスの損失隠し疑惑に21日、本格捜査のメスが入った。東京地検特捜部などが金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)容疑で、関係先の家宅捜索に着手した。損失を簿外に移す「飛ばし」に手を染め、隠蔽し続けた世界的光学機器メーカーの旧経営陣。そうした体質は、同社の第三者委員会に「サラリーマン根性の集大成」などと指弾された。バブル経済の負の遺産を先送りにしたツケは、刑事事件化という形ではね返った。
10月14日に開かれたオリンパスの臨時取締役会。かねてから不透明なカネの流れについて問いただしていた社長のマイケル・ウッドフォード氏(51)の解職動議が、突然諮られた。ウッドフォード氏を除く全員が手を挙げ、解職はあっさりと決まった。
「独断専行で組織の意思決定を進めた。文化の壁を越えられなかった」
当時の菊川剛会長(70)は同日の記者会見で、解任の理由についてそう語った。だが、ウッドフォード氏がメディアや国内外の捜査機関に疑惑を告発することで、国際社会の疑念は膨らんだ。結果的に同社は三者委への調査委嘱を余儀なくされ、損失隠しなどの一連の不正が明るみに出た。
巨額の損失隠しに伴う決算訂正により財務内容が大幅悪化したオリンパスが、1000億円規模の増資に向け検討していることが20日、分かった。すでに複数の証券会社に資金調達の仲介を依頼し資本増強の準備に着手。来年1月をめどに具体策を取りまとめる考え。海外の投資会社などの大株主は「既存株主の議決権が希薄化する」として増資に反対しているが、銀行団は資本増強策を支持する見通しで、実現には曲折も予想される。
オリンパスは、損失隠しなどで経営の健全性を示す自己資本比率が9月末時点で4.5%まで低下。健全な事業会社の目安である30%を大きく下回っている。このため、高山修一社長ら現経営陣は、他社との資本提携を含めた資本増強策の検討に入っていた。増資の引受先としては、製造業や金融機関などを想定しており、医療機器事業の強化を急いでいる富士フイルムホールディングスやソニー、パナソニック、独シーメンスなどが浮上。事業面での提携効果を基準に検討するとみられる。
また、既存株主に配慮して、現時点では議決権がない代わりに優先的に配当を受けられる「優先株」の発行を検討しているもよう。ただ、大株主である米投資会社のサウスイースタン・アセット・マネジメントは19日、増資に反対する声明を出しており、「現経営陣が(株主に)高圧的な対決姿勢を崩さなければ、株主訴訟の可能性が増す」とも警告している。
一方、ブルームバーグによると、三井住友銀行などの銀行団は現経営陣が計画している資本増強について、関係者2人が支持することを明らかにしたとしている。
オリンパスが損失隠しを認め、株価がストップ安の734円まで下落した11月8日の時点で、ゴールドマンによるオリンパス株の空売り残高は194万株とピークに達した。ところが株価が584円まで下落した翌9日の時点で残高は4万株強にまで一気に激減する。この時点で大量に買い戻したということになる。
同社の株価は11日に460円まで下げたが、週明け14日には上場維持観測が広がったことからストップ高の540円まで反転した。ゴールドマンは暴落前に空売りを入れて、底打ち直前に買い戻している。
この間の収支を終値ベースで計算すると、オリンパス株を空売りした額は約40億円、一方で買い戻した額は約18億円。実際には、現物株の買いなどを組み合わせている可能性もあり単純ではないが、空売りと買い戻しに限れば、差し引き約22億円の利益と計算できる。
前出の証券マンは、「株価の下値メドはまず半値、次は八掛け、そして2割引とされる。上値を2000円とすると下値は640円。投資の基本に忠実に買い戻したとも考えられる」という。
この1カ月、オリンパス株の暴落で多くの株主が損失を抱えたが、世界最強の投資銀行と呼ばれる米ゴールドマン・サックスはひと味違った。株価の下落でも儲かる「空売り」をいち早く仕掛け、底打ち直前に買い戻すという売買を神業のようなタイミングで実行した。一連の取引で22億円前後の利益を上げたという計算もできる。その凄すぎる手口とは?
オリンパスをめぐる騒動の発端は10月14日、マイケル・ウッドフォード氏(51)が突如、社長を解任されたことだった。ゴールドマンはその前日の13日、オリンパス株を約83万株空売りしている。同日の終値2482円で計算すると20億円超の売りを一気に出したことになる。
空売りとは株を持たずに、ほかから借りてきて売却すること。株価の下落が予測されるときに使う手法で、値下がりした際に買い戻すことで、その差額が利益となる。
東京証券取引所は証券会社などが空売りした銘柄や株数の残高を日々公表している。それをみると、ゴールドマンは13日以降、一定程度買い戻しながらも、空売りを増やし続けている。
この手口について、ある国内証券マンは「ウッドフォード氏が経営陣を告発するのを聞いて、事態は深刻ということで、どんどん売りを増やしていった印象だ」と解説する。
「ついに来たか」。オリンパスの損失隠し事件で、東京地検特捜部などは21日午前11時半すぎから、関係先の一斉捜索に着手した。同社本社などには一様に険しい表情の東京地検係官や警視庁捜査員らが次々と入った。年の瀬間際の着手となった巨額の不正経理。寒風のオフィス街は異様な雰囲気に包まれた。
オリンパス本社が入居する東京都新宿区の30階建てオフィスビルには、午前11時40分ごろ、東京地検の係官らが入った。
ビル前には早朝から報道陣80人以上が待機したが、係官らはカメラを避けるように地下2階の業務用出入り口から本社内に入った。
オリンパス関連会社に勤務する男性は「ついに捜索の日が来たかという思いだ。一刻も早く事件が解決してほしい」と言葉少なに話した。
損失穴埋めに買収資金が利用された国内3社が入居する東京都港区の雑居ビルには約30人が入った。捜査員が到着すると、カメラのシャッターが切られ、ものものしい雰囲気に。オリンパスをめぐる家宅捜索と聞いた通行人の会社員男性は「ここに事件に関係する会社があるとは知らなかった」と驚いた様子だった。
川崎市の菊川剛前会長(70)のマンションにも捜索が入った。通勤や通学のためマンションから出てきた住民らは驚いた様子で、「何があったのか」と報道陣に質問する姿も目立った。