暖かな春風が吹き始めるこの時期、大気中には身体への影響が懸念される物質が数多く浮遊する。
26日に西日本を中心に濃度が上昇した微小粒子状物質(PM2.5)をはじめ、黄砂やスギ花粉といった粒子だ。それぞれ観測、注意喚起を行う機関も異なり、こまめな情報チェックが必要だ。
◆身体への影響
26日朝、大阪市街地はもやがかかった。微粒子が大気中に舞い、視界が悪くなる現象で、気象用語で「煙霧」と呼ばれる。原因はPM2.5。主に車や工場の排ガスから生成され、大気汚染の進む中国から日本に飛んできたとみられる。
春先はこのほか、スギ花粉や黄砂が飛来し、目がかゆくなったり、せきが出たりする症状を起こす。ただ、スギ花粉の粒子は直径約30マイクロ・メートル、黄砂の多くは直径約5マイクロ・メートルなのに対し、PM2.5は直径2・5マイクロ・メートル以下。九州大学の竹村俊彦准教授(大気環境学)によると、PM2.5の多くは0・3マイクロ・メートルほどと極めて小さい。血中に取り込まれ、健康に影響を及ぼす可能性があるという
◆異なる観測機関
これらの粒子については、それぞれ異なる機関が観測や注意喚起をしている。
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PM2・5は、都道府県が全国約700か所で観測。健康に影響が及ぶ可能性があるとして環境省が示す暫定基準(1日の平均濃度が1立方メートル当たり70マイクロ・グラムを超える場合)を目安に、各自治体の判断で注意喚起情報を出している。
黄砂は気象庁も観測、広範囲で継続して飛来が予測される場合は「黄砂に関する気象情報」を出して注意を呼びかけている。花粉は環境省が観測し、ネット上で情報を提供している。
民間の気象情報会社のウェザーニューズは全国1000か所にある花粉観測機のデータを公表。今年からは同観測機でPM2.5も観測する予定だ。
◆マスク着用を
粒子を体内に入れないためにはマスクの着用などが必要だ。PM2.5の場合、外出や屋外での激しい運動を控える必要はあるが、竹村准教授は「人によって感度は異なり、一時的な基準超えに神経質になる必要はない。ただ、高齢者や子供は影響が出やすいので注意してほしい」と話す。洗濯物や布団を外で干すのを控え、屋内に粒子を取り込まない対策も有効だ。
一方、PM2.5や黄砂の相互作用で花粉症を悪化させるとの研究もある。
大阪市此花区の菊守耳鼻咽喉科では、高濃度のPM2.5を観測した26日前後から花粉症とみられる患者が増えた。菊守寛院長は「症状を和らげるには早めに薬を飲み、マスクやめがねを着用することが重要だ」と話している。
高度成長期 社会問題に
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濃いスモッグに包まれ「霧の都」になった1963年の大阪市。視界が悪く、日中にヘッドライトをつけてノロノロ運転する車の姿
日本でも高度経済成長期、国内工場のばい煙や車の排ガスによるスモッグが社会問題化した。PM2.5と同種のもので、1963年当時の写真にはスモッグに包まれた大阪市内の様子がおさめられている。
「通天閣から天王寺動物園も見えない日があり、展望塔にとって暗黒時代だったそうです」。通天閣観光副社長の高井隆光さん(39)は先代社長からそう聞いたことを振り返る。展望が利かない通天閣は人が減り、経営も厳しくなった。
健康問題も深刻化した。大阪府東大阪市では、湾岸部のばい煙などの影響とみられるぜんそく患者が相次いだ。市によると、78年以降の慢性気管支炎などの公害患者の認定は最大で約4900人に達した。公害防止条例を制定、環境改善に取り組んだ結果、88年を最後に新たな認定はないが、現在も約1300人が公害医療手帳を持つ。
当時を知る職員は「窓を開けておくと机の上がざらざらになった。PM2.5のニュースを聞くと、昔を思い出す。二度とあんな経験はしたくない」と語る。
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