子供にあいさつしただけで「不審者」のレッテルを貼られかねない昨今、迷子を見かけた際に「どうしたの?」と声をかけるのは少し勇気がいることかもしれない。
ある男性は声をかける代わりに「110番」としてその場を去るという苦肉の策をとった。一連の出来事を2014年1月9日にツイッターで告白すると、すぐに反響が広がった。
■「駅はどちらですか」「すみません」で通報の例も
男性は9日、「昨晩110番を利用してしまった」として8日夜の出来事を語り始めた。ツイートによると、男性は20時ごろ、小学校1~2年生くらいの子供が1人で泣きながら歩いているところを住宅街で見かけた。迷子かと思い、声をかけようとしたが、いわゆる「声かけ事案扱いされること」が頭に浮かんだ。男性は不審者扱いされるリスクを考えて声をかけることを断念し、代わりに「110番」通報をしたという。
一般的に「声かけ事案」とは、子供に「お菓子をあげる」「車に乗せてあげる」などと誘うものや、住所などの個人情報を尋ねるもの、卑猥な言葉をかけるものなど、誘拐事件や性犯罪などの前兆と思われる事案のことを指し、条例で禁止している県もある。
ところが、各警察署がメールマガジンやホームページで発表している事例をみてみると、本当に不審者だったのか分からないものも散見される。「おはよう」と挨拶した男性や、「駅はどちらですか」と尋ねた男性、「すみません」と声をかけた男性の通報例は、受け取り手の過剰反応である可能性も否定できない。インターネット上には、転んだ少女に「大丈夫?」と声をかけた結果、長時間にわたって事情聴取されたという不幸な報告もある。
こうした現状を踏まえた結果、男性は110番を選んだようだ。その慎重さは徹底していて、女性オペレーターから電話口で「最寄りの交番まで連れてきてほしい」と言われると、それでは「事案」を恐れて通報している意味がないとして断った。声をかけた場合に、子供が大声をあげたり防犯ブザーを鳴らしたりする可能性も危惧していた。また、オペレーターに「せめて警察官が到着するまで、近くで見守ってあげて」と求められたが、子供の近くで立ち止まって見ていては、それこそ「不審者」として通報される可能性があるとしてこれも断ったという。
「10年前なら間違いなく声をかけて交番に連れて行ってあげたが、今は男がそんな事をしたら何を言われるかわからない」という男性は、やりとりの末「一分でも早く警察官に保護させてください」と伝えて、後味の悪さを感じながらも子供のいる現場を立ち去ったという。
「考えすぎ」「電話するだけたいしたもの」と議論に
一連の投稿がツイートまとめサービス「Togetter」にまとめられると、すぐに注目を集め、議論を呼んだ。男性の慎重な行動に対しては「想像力がすげーな。そこまで回転するか」「普通に声かけて普通に交番連れていけよ。事案なんて只の注意の呼びかけで犯罪でもなんでもない」と否定的な意見も見られるが、「過剰」とみる人でも「警察って調書一つ書くんでも馬鹿みたいに長時間拘束するからなぁ」「今の世の風潮からしてこのように考える人が出てくるのには何の不思議もないね」と一定の理解を示す人もいる。
一方、男性に共感する人たちからは「色々勉強になった」「自分も多分同じような行動になると思う」といった声が寄せられたほか、「電話するだけたいしたもの」「通報しただけこの人はリスクを負ったので立派」と賛辞を送る人も少なくなかった。
幸い、この子供は無事保護されて親の元へ戻れたそうだ。ただし、男性は「再度同じような子を見かけても、もう通報する勇気は無いかもしれない。子供が泣いているのをたすけるという単純な行為がこんなに大変なものだとは思わなかった」とツイッターで振り返っている。