1970年代までアスベスト(石綿)を入れた麻袋を再生していた堺市内の5工場について、労働者8人と周辺住民ら2人の計10人が中皮腫や肺がんなどで死亡し、労働者の家族計4人から石綿を吸った人に特有の「胸膜プラーク」の症状が見つかったことがわかった。
調査した「中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会」は、ほかにも周辺被害が広がっている可能性があるとして相談などを呼びかけている。
同会などによると、麻袋はかつてコーヒーや穀物以外に石綿の梱包(こんぽう)にも用いられた。使用済みの麻袋は再生業者が引き取って、いったん切断し、付着した石綿を落とした後、縫い合わせて再利用された。「工場の窓から粉じんが吹き出していた」との証言もあり、工場内外に大量の石綿が飛散した可能性があるという。
今回被害が明らかになったのは、同市堺区、中区、北区の4業者の計5工場。現在うち4工場はすでに閉鎖。残りの1工場は移転しており、石綿の使用もない。
死亡した労働者以外の2人をみると、堺区にあった工場のすぐ裏で生まれ育った女性は中皮腫を発症して、2009年に50歳で死亡。運送業者をしていた父親の車に同乗して堺区の別の工場に出入りしていた女性も中皮腫になり、10年に57歳で亡くなった。2人は石綿健康被害救済法の救済対象となっている。
また、胸膜プラーク患者の4人はいずれも家族が工場で働いていたという。
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5工場のうちの一つで、麻袋をリサイクルしていた業者の男性(68)によると、工場では、使用済みの袋を集じん機に装着して付着した石綿を取り除き、包装材などに再利用していた。作業中、ほこりがもうもうと立ちこめていたといい、男性自身も約20年前に胸膜プラークの手術を受けた。
男性は「国が石綿の危険性を早く知らせていれば、被害拡大を防げたのではないか。国の責任で補償すべきだ」と話した。
同会の調査では、堺市内には5工場以外に少なくとも六つの麻袋再生工場があったという。
全国的にも同様の工場が存在していたとみられ、NPO法人東京労働安全衛生センターによると、石綿の入った麻袋の再生作業をしていた工場は東京で2か所、埼玉で1か所確認されている。
このうち、東京都足立区の工場に勤務し、「石綿肺」を発症した埼玉県の男性ら2人が労災と認定。
ほかにも、再生された麻袋を使っていすの座面を作る都内の工場で働いていた男性1人も中皮腫を発症、労災認定されたという。
中皮腫・アスベスト疾患・患者と家族の会では、電話相談(06・6943・1527)を受け付けている。
国の健康調査市が要求へ
堺市は、環境省が兵庫県尼崎市などで実施中の「石綿の健康リスク調査」に堺市を加えるよう、同省に求める方針を決めた。堺市では「麻袋リサイクル業の被害がこれほどまでとは知らなかった。実態を把握する必要がある」としている。
調査はクボタ旧神崎工場(尼崎市)周辺で石綿被害が多発した問題を受けて2006年度に始まった。石綿を使用していた工場周辺に居住歴がある希望者を対象に、無料検診(年1回)を実施し、症状の変化などを検証する。
小規模な工場周辺の被害については、大阪市西成区でも、アスベストを使って保温剤などを製造していた工場周辺で少なくとも住民13人に、中皮腫などの石綿被害が判明。同省は、今年度に新しく大阪市をリスク調査の対象に加えた。大阪市内ではかつて100か所近くの石綿製品製造工場があったとみられている。
国は06年に石綿健康被害救済制度を創設。工場周辺の住民など労災保険の対象外の人について、救済給付や特別遺族給付金を支給している。