ここ数年、日本でもゴルフは米国や英国同様にスポーツとして楽しむものに変わってきているといわれる。実際、首都圏のゴルフ場は平日も退職した団塊世代や中高年の女性ゴルファーで賑わっている。背景にはプレー価格の引き下げ、カートの利用促進などがある。
ならば、今後、ゴルフが気軽に楽しむスポーツとして日本に完全に根付くのかというと、どうもそう単純な見方をするのは早計らしい。業界は「2025年問題」に戦々恐々としているからだ。
25年は、約800万人いる団塊世代が後期高齢者(75歳以上)に達し、医療費などの社会保障費が急膨張するなか、医療や介護の提供体制が抜本的な見直しを迫られる節目の年。この課題を取り上げて論ずる時、「2025年問題」という表現が使われる。
内閣府発表の「2013年版高齢社会白書」(http://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2013/gaiyou/pdf/1s1s.pdf)によれば、12年10月1日現在の高齢化率(総人口に占める65歳以上人口の割合)は24.1%(3079万人)だが、25年には30.3%(3658万人)に上昇する。しかも、25年には後期高齢者が高齢者のうちの約6割を占めると予想されている。また、厚労省の試算では社会保障給付費の総額(13年度予算ベースで110兆円)が144兆円に達する。
この間違いなくやってくる“未来”が、社会保障の財源問題や、医療や介護の体制に多大な影響を及ぼすのは間違いないが、問題はそれにとどまらない。日本の経済社会に大きな変化をもたらし、産業構造、企業経営にもさまざまな課題を突き付ける。その一例がゴルフ業界なのである。
●バブルに浮かれてゴルフ場を大量に建設
戦後の日本では、ゴルフは、企業が接待に利用する目的で普及したといってもよいであろう。バブル期の1980年代後半がその全盛期で、バブルに浮かれた大企業がこぞって、ゴルフ場開発に乗り出し、建設ラッシュが起き、会員権も高騰した。
しかし、豪華なクラブハウスを構えたゴルフ場が完成したのはバブル崩壊後だ。ゴルフ場数は92年には2000カ所を超え、02年には2460カ所にまで増えた。多くの開発資金は金融機関において不良債権と化したが、ゴルフ場として完成させなければ、融資全額をドブに捨てることに等しく、やむなく完成させたところも多々ある、と聞く。
ゴルフ場が増え続ける中、日本経済は97年以降、金融危機に見舞われ、経営破綻するゴルフ場が相次いだ。そこに登場したのが外資ファンドの傘下にあったアコーディア・ゴルフとPGMホールディングスだった。
この2社は巨額資本を背景に、経営が危機に陥ったり破綻したゴルフ場を次々に買収し、再生させた。その結果、現在では日本のゴルフ場の勢力図は一変し、シェア(売り上げベース)は2社で約7割に達している。
経営危機・破綻に伴うM&Aが加速する中、日本経済はデフレの泥沼にはまり、接待ゴルフの急減に加え、若年層を中心としたゴルフ離れも深刻化した。その結果、国内のゴルフ人口は95年の1537万人をピークに減少傾向にある。総務省の社会生活基本調査によると、11年のゴルフ人口は924万人と、16年間で約40%も減少している。
しかし、ゴルフ業界の売り上げは05年から増加傾向にある。4年連続で前年比プラスとなり、その後も横ばいを維持している。平日割引や各種優待・サービスなどさまざまな策を打ち出したアコーディア、PGM両社の営業努力が奏功しているようで、ゴルファー1人当たりの1年間にプレーする回数も増える傾向にあるという。
業界にとっては団塊世代さまさまといったところなのだが、それが永遠に続くはずもない。いずれ、ゴルフをしなくなる、いや、できなくなる時期がやってくる。まさに、その時期が25年なのである。
●ゴルフ業界だけではない「2025年問題」
バブル時代に接待ゴルフを謳歌したのは、当時30代後半から50代までの働き盛りのサラリーマンたちだった。団塊世代が30代後半だったので、それより上の世代が中心だ。団塊世代のうち、どれくらいがゴルフ人口といえるのか、わからない。仮に8分の1の約100万人として、その全員とさらに上の世代が“勇退”すれば、ゴルフ人口は800万人を割るだろう。
日本のゴルフ場数はまだ約2400カ所もあり、米国、英国に次いで世界第3位の数だ。25年以降もこれだけの数のゴルフ場を維持し続けることは不可能だ。まだ10年余り先のこととはいえ、業界が戦々恐々となるのは頷ける。日経平均株価が13年の1年間で57%上昇したのに、ゴルフ会員権相場の上昇が17%弱(桜ゴルフ調べ)にとどまったところにも、ゴルフ業界の先細りが垣間見える。
影響を受けるのはゴルフ場の施設運営だけではない。クラブ、ボール、ウエアなどの用具・用品も需要減に見舞われるのは必至だ。しかも、ゴルフ業界はほんの一例に過ぎない。
「2025年問題」はすべての産業にとって、他人事ではないのだ。新たな輸出産業の育成策とともに、人口減に対応した内需産業の構造改革支援策、つまり10年先を睨んだ産業政策を構想することが求められるゆえんである。アベノミクスで日本経済を成長軌道に乗せ、持続させたいという安倍晋三政権は、企業の新陳代謝にはなっても、内需の拡大にはつながらない規制緩和を目玉の一つとして掲げるが、この問題を“猫またぎ”しているようにしかみえない。