経団連は今月15日、今年の春闘に向けて経営側の指針となる「経営労働政策委員会報告」を発表しました。ここで、2008年以来、6年ぶりに「ベア」を容認する方針を示しました。
―――「ベア? テディ・ベア?」
いえ、違います。「ベア」とは、「ベースアップ」の略で、基本給の水準を底上げすることです。
―――「なるほど、最近ずっと給料が上がってなかったもんね。うちの会社なんて、1年目と5年目社員が給料変わらないもん」
定期昇給とベアの違い
それは少し違います。もしかしたら誤解があるかもしれません。
「ベア」とは、給料が上がるということではなく、「給料の水準が上がること」です。
これに対して、年次を重ねるたびに給料が上がっていくことを「定期昇給」といいます。
―――「ん? 何が違うの?」
一般的に、新入社員よりもベテラン社員の方が給料が高いですね。いわば坂道のように、だんだん上がっていくわけです。この「坂道」に沿って、給料が上がっていくことを「定期昇給」といいます。1年目より2年目の方が給料が高くなるのは、「定期昇給」の影響です。
「ベア」はこれとは違います。「ベースアップ」という言葉の通り、ベース(基準となる基本給)自体が上がります。「坂道」自体が上に持ち上がるイメージですね。
「ベア」は、給料水準自体を全体的に上げることになります。日本では、一度上げた給料を下げるのは大変ですから、事実上「将来にわたって給料を上げる」ということでもあります。
なので、企業からすると「ベア」を実施するのには勇気がいります。ベアをした分、これからずっと人件費が増えるということですからね。なので、ベアよりも、毎年調整ができるボーナスで「給料」を調整しようと企業が多いです。
労働者から見ると、毎年変わるボーナスで調整されるより、「ベース」がアップした方が安定します。なので昇給が同じだったとしても、社員にとってはボーナスでもらうより「ベア」の方が好ましいんです。
賃上げを容認する理由とは
労働組合側は、労働者の立場を代表していますので、当然「給料を上げろ! ベースアップを要求する!」と主張します。これに対し、経団連が「いやいや、そうは言っても経済環境は厳しいよね」と反論するのが、ここ数年の常でした。
ただし今年は、企業側も賃上げを容認する考えです。
―――「お、すごいね。でも、なんで??」
理由は大きく分けて2つあると思います。
ひとつは、円安・株高で企業業績が回復してきたこと。
もうひとつは、政府から「従業員の給料を上げなさい」という賃上げ要請が来ていること。
昨年から始まったアベノミクスでは、国民の給料を上げることを大きな目標の一つに考えています。そのために安倍総理自ら企業に働きかけて、賃上げをするように要請してきました。その結果が現れていると考えられます。
6年ぶりに経団連が「ベア」を容認したのは、これは政策の成果として評価をしていいと思っています。
―――「やった! これでうちの会社も基本給が上がるんだ!」
中小企業が従うとは限らない
ただ、じつはそうとは言い切れないんです。
というのは、経団連の考えはあくまでも「方針」だからです。企業の代表である経団連(日本経済団体連合会)と各労働組合の代表である連合(日本労働組合総連合会)が全体の方針について争います。そこで決まった内容を「方針」として、全国の企業が「じゃあ、うちはどうしようか」と考えるんです。だから、従う義務はありません。
―――「え!? そうなの??」
それに、経団連は、いわば「大企業のグループ」です。大企業が、大企業の事情を踏まえて判断しているケースが多いと言えます。
そのため、その大企業の方針に中小企業が従うとは限りません。というより、中小企業まで給料アップの流れが波及するとは考えづらい状況です。
日本の企業のうち、99%が中小零細企業です。また、中小零細企業で雇われている人が、全体の約7割と言われます。
経団連がベアを容認したといっても、まだ終わりではありません。国民全体が賃上げの恩恵を受けられるような政策を引き続き期待したいです。