2013年末から14年初めにかけて、中国人民解放軍は中朝国境付近で大規模な軍事演習を相次いで実施した。厳冬期の部隊の機動・実戦力を高めるためとの名目だが「朝鮮有事への対応と北朝鮮の反中勢力を牽制することが本当の狙い」(中国共産党筋)とみられる。北朝鮮は昨年末に中国と太いパイプを持つ張成沢一派を粛清したことは、中国の不信を募らせたようだ。中国の外交関係者は「中朝関係は五度目の氷河期を迎えた」と指摘した。
◇大規模な軍事演習
張成沢失脚が日韓メディアに報じられた直後の昨年12月上旬、中国軍は中朝国境近くの白頭山 (中国名・長白山)付近に約3千人の兵士を派遣し、耐寒軍事演習を実施した。北朝鮮で内戦が勃発し、武装勢力が中国に入ってくることを警戒する目的といわれた。
今年に入ってから、演習規模はさらに拡大した。韓国のメディアなどによると、中国軍は1月10日頃から、瀋陽軍区に所属する主力部隊の第16集団軍と第39集団軍の約10万人の兵力と数千台の戦車を動員し、白頭山とアムール川の間の地域で、大規模な演習に突入した。国営中央テレビ(CCTV)は11日に第39集団軍の戦車部隊が雪深く積もる原野を進軍する場面を伝えるとともに、今回の演習の目的は「長距離機動力と実戦能力の向上」と紹介した。
共産党筋は「中朝国境付近で複数の集団軍を動員する規模の演習を行うのは異例だ」と指摘したうえで、中朝国境から北朝鮮首都の平壌まで直線距離は僅か200キロあまりで、戦車部隊は5時間ほどで到達できる距離だといい「今回の戦車部隊の前進演習は、朝鮮有事への警戒よりも、北朝鮮国内の反中勢力に対する牽制だ」と述べた。
中国海軍も同じ時期、北朝鮮が面する渤海湾で10日から17日まで軍事任務があるとして、一般船舶の航海を禁止した。春節(旧正月、1月31日)の長期休暇前の最後に書き入れ時の北朝鮮の漁民と商船にとって、航海禁止は大きな痛手といえる。
◇北朝鮮の真意を読めない中国
複数の中国の外交関係者によれば、12月上旬に起きた張成沢失脚劇は中国にとって「寝耳に水」のような出来事だった。中国の北朝鮮とのパイプ役として、長年張氏周辺を重点的に頼っている。張氏の失脚にともない、北朝鮮の政権中枢で親中派、改革派といわれた中央委員、副閣僚クラス以上の幹部は20人以上が失脚し、その一部はすでに処刑されたことという情報が中国に入ってきているという。言い換えれば、北朝鮮政権内の中国の息がかかった幹部は一掃され、中国の北朝鮮に対する影響力は大きく損なわれた。
そのうえ、北朝鮮が発表した張氏の罪状のなかには、中朝貿易を否定し、中国への敵意を感じさせる部分もある。さらに、張氏失脚からすでに1カ月以上経過しているのに、北朝鮮はいまだに事情を説明する特使を中国に派遣していない。
「金正恩政権はすでに中国と対決方針をきめたのでは」といった観測が中国の対北朝鮮関係者の間で流れはじめたという。
◇五度目の氷河期
中国は北朝鮮の最大の支援国として長年北朝鮮の金政権を支えてきた。しかし、中朝関係はけっして安定状態を続けてきたわけではない。これまで4度も大きな危機があったといわれる。
北京の中朝関係史の研究者によれば、最初の危機は1952年ごろに起きた。朝鮮戦争の戦後処理をめぐる双方の対立が表明化し、中国は駐北朝鮮大使を召還した。56年、金日成首相(当時)は朝鮮労働党内で「延安派」と呼ばれる親中派を粛清したことで再び悪化。1960年代の中ソ対立で、北朝鮮はソ連と関係を重視したことでも中国の不信感を買ったこともあった。そして、中朝最大の危機は1992年に訪れた。韓国と国交を樹立した中国に対し北朝鮮が反発し、双方の首脳会談は約10年間中断した。
これまでの危機はいずれも国際情勢の変化などに伴い回復した。中国の国際関係学者は、今回の中朝関係悪化を「5度目の冬の時代」と表現する。そのうえで、「金正恩氏が北朝鮮政権で絶対的な主導権を持っていればいずれ関係修復するだろう。しかし張成沢失脚で権力バランスが崩れ、内乱が発生するようなことがあれば、中国は北朝鮮にある自国の利権を守るため、内政介入する可能性もある」と話している。