オリンパスの損失隠し問題で、同社の第三者委員会(委員長・甲斐中辰夫弁護士)は監査法人の責任についても調査報告書に盛り込む方向で最終調整していることが分かった。報告書は01年まで社長を務めた岸本正寿元会長(75)や後任の菊川剛前会長(70)ら歴代経営陣の関与も記載し、6日にも発表する。
関係者によると、同社は90年代に財テクに失敗し、多額の含み損を抱えた有価証券の損失計上を先送り。時価会計制度導入(01年3月期)を機に海外投資ファンドなどに損失を移す「飛ばし」を行ってきた。06~08年の英医療機器メーカーや国内ベンチャー3社の買収に伴う投資助言会社への報酬や買収資金など計約1400億円の大半を、複数のファンドを通じて損失の穴埋めに流用し、その仕組みには国内大手証券会社OBらが深く関与していた。
オリンパスの監査は09年3月期まで「あずさ監査法人」が、10年3月期からは「新日本監査法人」が担当。第三者委は、10年以上にわたり損失隠しを見抜けなかった責任は重いとして、両法人の監査体制の問題点などを報告書で指摘する方向で調整している。
一方、岸本元会長は第三者委の聴取に「損失隠しには関わっていない」と説明した。だが、元会長が社長を務めていた00年3月期決算で総額数百億円の含み損があったにもかかわらず、特別損失を約170億円しか計上しなかった点などを第三者委は重視。当時、経理に関わる部署は社長直轄だったことなどから、「知らなかったはずはない」と判断したとみられる。
菊川前会長については、損失隠しの実務を主導したとされる山田秀雄前常勤監査役(66)や森久志前副社長(54)らが「前会長に報告していた」と話しており、第三者委は前会長も不正を認識していたとみている模様だ。前会長は、第三者委の聴取に「損失隠しは知っていたが、額については最近知った」と釈明しているという。
一方、社長を解任されたマイケル・ウッドフォード氏が言及した「反社会的勢力など外部への資金の流出」の可能性については、含み損額と損失穴埋め額がほぼ同額だったことなどから、認められなかったと結論づけるとみられる。
オリンパスの不正経理問題で、同社が有価証券などへの投資で出した損失が千数百億円に上っていたことが関係者への取材で明らかになった。損失隠しには、含み損を抱えた有価証券などを社外の投資ファンドへ移し、損失を表面化させない「飛ばし」の手法が使われていたという。
オリンパスは過去の決算を訂正する方針だが、大幅な下方修正は必至。14日に延期していた11年9月中間連結決算の発表はさらに遅れる可能性もある。そうなれば東証の監理銘柄に指定されることになる。
オリンパスは財テクに失敗し、バブル崩壊後の90年代、有価証券などの値下がりによって多額の含み損を抱えた。関係者によると、含み損は千数百億円に上り、決算で損失を計上する必要があったが、「会社の株価や業績に影響が出る」との判断から、歴代社長や総務担当役員が代々先送りしてきたという。
損失の表面化を回避するため、オリンパスは日本の証券会社出身者らと協力し、社外の複数の投資ファンドへ含み損を抱えた有価証券などを移し替えた。そのうえで、英医療機器メーカー「ジャイラス」の買収に伴う投資助言会社への支払い660億円(当時の為替レート換算)や、国内3社の買収費用734億円の大半をこれらのファンドへ還流させ、損失をひそかに穴埋めしていたとみられる。
オリンパスの企業買収に絡む不正を調査している第三者委員会(委員長・甲斐中辰夫弁護士)も一連の経緯を把握している模様。今後、関係者への聞き取りなどを本格化させ、損失額や「飛ばし」のスキームの全容解明を進める。【竹地広憲】
毎日新聞 2011年11月9日 11時43分(最終更新 11月9日 12時39分)
【ロンドン笠原敏彦】オリンパスが証券投資の損失を隠していた問題で、焦点となる英医療機器メーカー「ジャイラス」買収をめぐり、買収交渉に携わったジャイラスの複数の元最高幹部が毎日新聞に対し、オリンパスが巨額報酬を支払った投資助言会社について「名前も聞いたことがなかった」と証言した。オリンパスの高山修一社長は8日、投資助言会社への支払い(当時の為替レート換算で660億円)を財テクの失敗で生じた損失穴埋めに流用したことを明らかにしたが、投資助言会社がジャイラス買収に関係していないとの証言で、裏付けられた形となった。
オリンパスはジャイラス買収に絡み、日本の証券会社出身者が代表を務める米国のAXESとケイマン諸島のAXAMインベストメントに約660億円を支払った。両者が結んだ07年6月のM&A(企業の合併・買収)に向けた合意文書では、買収候補先として海外企業4社が記載されており、ジャイラスは08年2月に買収された。
買収の経緯について、英国人の元ジャイラス最高幹部は匿名を条件に「オリンパスから取締役会に買収提案の書簡が届き、魅力的な買収額だったので交渉を始めることになった」と説明。そのうえで、この最高幹部は投資助言会社について、「AXESやAXAMという名前は聞いたこともなく驚きだ。オリンパスのアドバイザーとは接触したことも、電話を受けたこともない」と証言した。
買収に伴いジャイラスの最高経営責任者(CEO)を退任したロイ・デービス氏も電子メールで、「AXESとAXAMという名前は先月の報道で初めて知った。投資会社の代表には会った記憶もない」と回答した。AXAMはオリンパスからの最終支払いが行われた3カ月後の10年6月に登録料未払いで会社登録を抹消されている。
巨額報酬を内部告発してオリンパス社長を解任されたマイケル・ウッドフォード氏は、買収の目的は資金を流用することだったと指摘。同氏は医療機器の専門家で、買収交渉が行われた当時はオリンパスの欧州法人社長だったが、東京からの相談は一切なく、「なぜ買収するのか」と疑問に思っていたという。
毎日新聞 2011年11月9日 15時00分(最終更新 11月9日 20時28分)
オリンパスの損失隠し問題で、08年の英医療機器メーカー「ジャイラス」の買収に伴う米投資助言会社への支払いの一部をめぐり、監査法人が現金で行うよう勧めたにもかかわらず、オリンパスがジャイラスの優先株による支払いを強行していたことが9日、分かった。オリンパスはその後、優先株を6億2000万ドル(当時の為替レート換算で約590億円)で買い戻しており、過去の損失穴埋め費用を確保するために、投資助言会社へ多額の資金を流す狙いがあったとみられる。
毎日新聞が入手した内部資料などによると、オリンパスは投資助言会社に対し、ジャイラス買収の報酬の一部を、ジャイラスの新株予約権で支払う契約を結んでいた。しかし、オリンパスが予定していたジャイラスの再上場を取りやめたとして、投資助言会社は新株予約権に代わるものを求めたとしている。
当時オリンパスを担当していた海外の監査法人は08年7月、「現金で清算するのが透明性の観点から最も望ましい」と助言。オリンパスは聞き入れず、「投資助言会社が『現金で受け取れば米国で課税が生じる』と反対している」などとして、約1億7700万ドル(同約184億円)の価値があるとする優先株による支払いを選択した。同9月、オリンパスは英領ケイマン諸島にある投資助言会社の関係会社に優先株を渡した。
ところがその後、「ジャイラスを完全子会社化する」として、優先株を買い取ることを決定。ジャイラスの企業価値が向上したとして、買い取り額を発行時の3.5倍に設定。オリンパスは「投資助言会社が他者へ優先株を売却するのを防ぐため、高額で買い取った」と説明していたが、資金を流すためのからくりだったとみられる。
投資助言会社の関係会社は資金を受け取った3カ月後、会社登録を抹消。投資助言会社も現在は実態がないとみられ、資金の流れが追いにくい両社に支払われた資金が、「飛ばし」で表面化しなかった損失の穴埋めに利用された可能性が高い。
新株予約権発行や優先株買い取り額などの決定は、オリンパス側は菊川剛前会長兼社長、森久志前副社長ら一部の幹部で決められたとみられる。オリンパスの第三者委員会も経緯を把握しているもようで、全容解明を進めている。【竹地広憲】
毎日新聞 2011年11月10日 2時30分(最終更新 11月10日 2時48分)
オリンパスが損失隠しに使っていた「飛ばし」は、保有株や不動産が値下がりした企業が損失表面化を避けるため、バブル崩壊後によく使われた手法だ。決算期が異なる関連企業に、含み損のある有価証券などを一時的に売却する、などの手口がある。企業グループ全体をみる連結決算を重視する会計制度へ移行したことなどから、現在は難しいとみられていた。90年代から損失隠しを続けていたオリンパスに関係者は衝撃を受けている。
97年に自主廃業した山一証券は、同社がかぶった顧客の損失を、海外のペーパー企業などに移し替える「飛ばし」を行った。簿外債務は2684億円に上り、自主廃業の一因となった。バブル期には、企業が余剰資金を使って運用利益を増やす財テクが広がったが、バブル崩壊後は株価下落などで含み損が膨らみ、「飛ばし」が横行した。
オリンパスはバブル期の財テクに失敗し、90年代に千数百億円の含み損を抱えた。01年3月期決算から、金融商品の一部を取得時の価格である簿価ではなく、時価で計上するよう会計制度が変更され、含み損を一括計上する必要に迫られた。同社は、損失を一括計上すれば「会社の決算や株価に影響を与える」と判断。時価会計導入前の00年3月期に、前倒しで金融資産整理損として約170億円を計上したが、大半を先送り。「飛ばし」はこのころから始まったとみられる。
同社は、ケイマン諸島のファンドなど複数の投資ファンドへ含み損を抱えた金融商品を移すなどして損失の表面化を防いだ。一方、英医療機器メーカー「ジャイラス」買収に伴う投資助言会社への巨額報酬や、国内3社の買収費用を不当に高く設定することで、損失穴埋めに流用。報酬や買収費の総額は約1400億円に上り、相当の額が穴埋めに回されたとみられる。
00年3月期からの連結決算への移行や監査強化で、「飛ばし」は難しくなっており、市場では「こんな古典的手法が長年通用したのは驚き」(アナリスト)との声が多い。オリンパスの第三者委員会は、大手証券出身者ら外部の「協力者」がどう関与したかも調べ、損失隠しの実態解明を進める方針だ。【竹地広憲、柳原美砂子】
毎日新聞 2011年11月10日 東京朝刊