オリンパスが損失隠しに使っていた「飛ばし」は、保有株や不動産が値下がりした企業が損失表面化を避けるため、バブル崩壊後によく使われた手法だ。決算期が異なる関連企業に、含み損のある有価証券などを一時的に売却する、などの手口がある。企業グループ全体をみる連結決算を重視する会計制度へ移行したことなどから、現在は難しいとみられていた。90年代から損失隠しを続けていたオリンパスに関係者は衝撃を受けている。
97年に自主廃業した山一証券は、同社がかぶった顧客の損失を、海外のペーパー企業などに移し替える「飛ばし」を行った。簿外債務は2684億円に上り、自主廃業の一因となった。バブル期には、企業が余剰資金を使って運用利益を増やす財テクが広がったが、バブル崩壊後は株価下落などで含み損が膨らみ、「飛ばし」が横行した。
オリンパスはバブル期の財テクに失敗し、90年代に千数百億円の含み損を抱えた。01年3月期決算から、金融商品の一部を取得時の価格である簿価ではなく、時価で計上するよう会計制度が変更され、含み損を一括計上する必要に迫られた。同社は、損失を一括計上すれば「会社の決算や株価に影響を与える」と判断。時価会計導入前の00年3月期に、前倒しで金融資産整理損として約170億円を計上したが、大半を先送り。「飛ばし」はこのころから始まったとみられる。
同社は、ケイマン諸島のファンドなど複数の投資ファンドへ含み損を抱えた金融商品を移すなどして損失の表面化を防いだ。一方、英医療機器メーカー「ジャイラス」買収に伴う投資助言会社への巨額報酬や、国内3社の買収費用を不当に高く設定することで、損失穴埋めに流用。報酬や買収費の総額は約1400億円に上り、相当の額が穴埋めに回されたとみられる。
00年3月期からの連結決算への移行や監査強化で、「飛ばし」は難しくなっており、市場では「こんな古典的手法が長年通用したのは驚き」(アナリスト)との声が多い。オリンパスの第三者委員会は、大手証券出身者ら外部の「協力者」がどう関与したかも調べ、損失隠しの実態解明を進める方針だ。【竹地広憲、柳原美砂子】
毎日新聞 2011年11月10日 東京朝刊
政府・民主党が、「社会保障と税の一体改革」で来年度に提出する法案に関し、給与が高いサラリーマンの厚生年金保険料引き上げの再検討に入ったことが4日、分かった。企業側の反発を懸念し、いったんは見送ったが、年金改革の負担増加策の多くを先送りにしたため、財政健全化に向けた取り組みが足りないと判断した。法案提出が固まっている短時間労働者への厚生年金適用拡大の財源を確保する狙いもある。
これを受け、党年金ワーキングチームは、週明けに党「社会保障と税の一体改革調査会」へ提示する最終報告案に来年の法案提出可否を盛り込まない方向で調整に入った。高所得者の保険料の引き上げは、党が掲げる「所得比例年金」創設にプラスとの評価に触れる一方、取り扱いを今後の党調査会の検討に委ねる文言を挿入する方向だ。
政府・与党は6月にまとめた一体改革原案で、厚生年金保険料の算定基準となる標準報酬月額の上限(62万円)を見直し、高所得者の保険料を引き上げることを盛り込んだ。厚生労働省は、健康保険と同じ121万円に引き上げる案を社会保障審議会年金部会に提示しており、上限に該当する高所得者の月額保険料は労使の総額で10万2千円から19万9千円に跳ね上がる。